2019年後半は、日韓関係の悪化から一気にインバウンド韓国市場が縮小してしまいました。なんとか市場を盛り返す策を考える観光地もある中、今度は新型コロナウイルスの流行が観光市場を襲います。
日本のインバウンド市場を支えていた中国、台湾、香港、韓国市場からの訪日客が多かった地域では特に打撃が大きくなっています。
訪日客の多さは地域の活性化に役立つ一方で、観光客と周辺住民との不和も起こしがちです。
九州は地理的近さから韓国からの訪日客が多く訪れています。2020年が明けて、対馬のある神社では、韓国人のマナーの悪さを理由に観光地への韓国人受け入れを無期限で停止するとSNS上で喧伝しました。
事件発生のいきさつと、受け入れ停止に対する日本社会の反応や、類似した問題を回避する方法について解説していきます。
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対馬の和多都美神社が、団体客の韓国人を拒否→外国人の参拝を全面的・無期限で停止
2020年1月、長崎県対馬市の和多都美神社では韓国人観光客を指すと思われる文脈で「外国人」の立ち入りを無期限で停止する旨を、和多都美神社禰宜(ねぎ)と名乗るアカウントがツイッターで表明しました。なお、該当の投稿はすでに削除されています。
禰宜は神社における神職の職名の1つであり、一般的には宮司を補佐する役職です。これまでも、団体客の訪日韓国人に対し、神社でのマナーを守って参拝してもらえるよう取り組んできたところが、観光客やガイドの行動を変化させることができず、今回の受け入れ停止を決断したとしています。
以前から悩まされていた「マナー違反」
和多都美神社では以前から、韓国人観光客とガイドのマナーの悪さに悩まされてきたそうです。
韓国人ガイドの中には、注意すると逆上する人もいたといいます。和多都美神社禰宜は、その様子を告発するツイートを投稿しています。
迷惑行為とは具体的には、神社拝殿の入り口を塞いだ状態で、10〜20分にわたり説明をする行動だそうです。こうした行動をとる人物の8割が、韓国人ガイドだったと主張しています。他の参拝者が来ても道を空けないことに不都合を感じ、神社から注意をすると感情的に反論されるといった事例が繰り返し発生したといいます。
ガイドには拝殿に乗りあがって案内をする人もいたといいます。神社は、多いときで1日約40人のガイドに注意していたとも話しています。
口頭による注意で改善できると思い、2019年の春から夏にかけては、朝9時〜17時まで毎日外で注意する事態となりました。
禰宜に体力的・精神的に負担がかかるだけでなく、本来の神社職務が行えない、他の観光客に対してもマイナスなイメージを与えるなどの深刻な事態につながっていったといいます。
線引きはどこに?観光という名の「破壊行為」?
和多都美神社禰宣のツイッターに寄せられた反応のなかには「日韓関係が悪化している現状では仕方ない」「神社に敬意を払わないならやむを得ない」「面白半分に信仰の場を汚したり破壊したりすることは許されない」というように、受け入れ停止へ賛同する声が挙がっています。
「相手への敬意」を相手が受け取れるかたちで示すこと、反対に失礼に当たる行為を行わないよう気をつけることが解決策として考えられるでしょう。
これらの姿勢は、日本人が国外に旅行する際にも意識すべき点です。
主語を拡大しすぎてしまうことは誤り
一方で、「一人の行動で国全体を決めつけるな」といった声も見られました。一部の韓国人の振る舞いをもって、その属性にあるすべての人の行動を制限することには、トラブルを起こさない韓国人の権利を不当に奪っているともいえるでしょう。
神社は韓国人の入場禁止を表明していますが、実際に韓国人の受け入れを全面的に停止することは法律上可能なのかというと、専門家によれば、法律上許されない可能性もあるようです。神社への参拝行為は「憲法20条 信教の自由」という基本的人権に関わるものだからです。
何らかの問題があった場合、それに関与した個人に対し法的措置をとることはできますが、その個人と同じ属性の人々に対し一律に参拝を禁止することはできないと考えられます。
対馬が直面する「韓国人観光客不足」の問題
日韓関係が悪化した影響で、2019年後半は様々な業界が、訪日韓国人の減少によるダメージを受けています。特に対馬は、訪日韓国人による消費も大きく、この事態を打破しなければとの意識が強かったと考えられます。2019年11月に対馬を訪れた韓国人は、前年の約1割にとどまっています。2018年の対馬における訪日客約41万人のほぼ全てが韓国人でした。
訪日韓国人の減少により、街が静かになった、旅行者の姿が少なくなったという声も聞かれています。島南部に位置する市中心部の厳原地区で満室続きだったホテルも、団体客のキャンセルが相次ぎ閑散としていました。
対馬市は、これまで韓国人観光客に依存しすぎたとことを反省し、日本人客の誘致に注力する一方で、「韓国は切っても切れない友人」とし、引き続き交流には取り組んでいく方針を示しています。
対馬ではサイクリング大会などの開催実績があることから、スポーツツーリズムでの誘致拡大に取り組む方針です。また、本土から対馬への交通アクセスや宿泊施設の拡充といった課題も含め、対馬の観光を見直し再構築する方向性を打ち出しています。
そうは言っても、現在は新型コロナウイルスの影響で海外の観光客の渡航がかないません。対馬からも韓国人の姿が見えなくなってしまっています。
2021年の春と言われている観光客の渡航解禁が待たれます。
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インバウンドの「迷惑行為」伝え方を工夫し、機会損失を防ぐ
今回とりあげた神社で、韓国人の参拝を全面的に禁止すれば、今後問題は起きないかもしれません。しかし同時に、観光資源としての神社の良さを伝えてくれる、良質な観光客の来訪の機会を奪うことにもなってしまうでしょう。
現在は世界的な新型コロナウイルスの流行を受け、インバウンド市場の動きはストップしていますが、この災禍を抜けた先には、再び観光立国としての日本の一部として、都心も地方も、インバウンド受け入れの環境整備に取り組むことになります。
観光地にとって絶対に守ってほしい規範を、観光客に伝えるということを考えるとき、異文化が背景にある場合にはそのメッセージが通常より伝わりづらいということもあります。海外からの観光が増える日本の各地では今後、「相手に理解してもらえる表現」でメッセージを用意することは、もはや多言語対応やWi-Fiの整備と同様に当然のものとなっていくべきでしょう。
日本の代表的観光地であり、早くからオーバーツーリズムによる訪日外国人のマナーに悩む京都市では、京都国際観光大使を起用したマナー啓発動画の配信に取り組んでいます。外国人インフルエンサーを起用したメッセージでは、訪日外国人その人が生きる文化の文脈で理解されるように日本の観光地の主張を伝えてくれます。こうした手段についても理解を深め、活用していくとよいでしょう。
<参照>
弁護士ドットコムニュース:トラブル続出で「外国人の参拝禁止」を決めた神社が話題...「一律対応」に懸念も
朝日新聞デジタル:前年の9割減も 対馬念頭、韓国人観光客激減を政府支援
日経ビジネス:年間40万人の韓国人客が激減、長崎・対馬の静かすぎる夏
SankeiBiz:韓国人激減で対馬が観光再構築 国内スポーツ誘致、韓国との交流も維持図る
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